先に結論。3つだけ。
この3つを言えれば、モデル比較の話は終わります。以下の表はすべて、この3つの裏付けです。
上位4モデルは実質横並び。
総合知能スコアは 63・62・61・61点。差は2点以内です。「一番賢いAI」を選ぶ意味はほぼありません。
差が出るのは価格のほう。
同世代でも1トークンあたり最大25倍の開き。コストは「どのモデルか」ではなく「どの階層に振り分けるか」で決まります。
選定軸は性能ではなく既存環境。
Google Workspace なら Gemini、Microsoft 365 なら Copilot、どちらでもなければ ChatGPT か Claude。これで9割決まります。
総合知能スコア。
Artificial Analysis の Intelligence Index v4.1.1(9つの評価を合成・すべて最大推論設定)。棒はゼロを基準にした実寸です。上位が団子になっている絵そのものが、この章の結論です。
読み取れること
- 上位4モデルの差は2点以内。ベンチマークの「勝敗」は業務判断の根拠になりません。
- Google は旗艦と廉価版が逆転しています。Gemini 3.1 Pro(48)を、同社の廉価版 Gemini 3.7 Flash(56)が上回っている。3.1 Pro が2026年2月から未更新で、後継の 3.5 Pro が延期を重ねているためです。
- オープンウェイトの Kimi K3 が60点。「安い=性能が低い」は、もう成り立ちません。ただし採用を薦めるかは別の話です(06参照)。
API従量課金の単価。
100万トークンあたりのUSD。受講者が直接使う数字ではありませんが、「なぜ階層を分けるとコストが下がるのか」を説明するときの根拠になります。第7回・第9回で使います。
| 提供元 | モデル | 入力 | 出力 | 文脈長 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| Anthropic | Claude Fable 5 | $10.00 | $50.00 | 100万 | 最上位 |
| Anthropic | Claude Opus 5 | $5.00 | $25.00 | 100万 | 2026/7/24 |
| Anthropic | Claude Sonnet 5 | $2.00 | $10.00 | 100万 | 据置が確定 |
| Anthropic | Claude Haiku 4.5 | $1.00 | $5.00 | 20万 | 最廉価 |
| OpenAI | GPT-5.6 Sol | $5.00 | $30.00 | 105万 | 8/21から3か月間20%超値下げ中 |
| OpenAI | GPT-5.6 Terra | $2.00 | $12.00 | 105万 | 7/30に20%値下げ |
| OpenAI | GPT-5.6 Luna | $0.20 | $1.20 | 105万 | 7/30に80%値下げ |
| Gemini 3.1 Pro | $2.00 | $12.00 | 100万 | 20万超で $4/$18 | |
| Gemini 3.7 Flash | $0.75 | $3.75 | 100万 | 導入価格・2026/12/31まで | |
| Gemini 3.5 Flash-Lite | $0.30 | $2.50 | 100万 | 大量処理向け | |
| SpaceXAI | Grok 4.6 | $2.00 | $6.00 | — | 2026/8/12 |
- 額面どおりには請求されません。3社ともキャッシュ利用で入力が約90%引き、バッチ処理で入出力とも50%引きになります。
- 期限つきの価格が2つあります。Gemini 3.7 Flash の導入価格は2026/12/31まで(翌日から $1.50/$7.50 に倍増)。OpenAI の GPT-5.6 Sol の値下げは8/21から3か月間。
- 文脈長が長い=ずっと安い、ではありません。OpenAI は入力27.2万トークンを超えると単価が上がります(Sol は $10/$45)。
個人向けの月額プラン。
受講者が自分で契約する場合の現実的な選択肢。ここは第11回まで持ち出さないでください——序盤で有料プランを薦めると、講座が営業に見えます。
| 提供元 | 入門 | 標準 | 上位 |
|---|---|---|---|
| ChatGPT | Go 約$8(約1,000円) | Plus $20(約3,000円) | Pro $100 / $200($200は9/10から新規受付停止) |
| Claude | — | Pro $20(約3,000円) | Max $100 / $200 |
| Gemini(Google AI) | Plus 月725円 | Pro 月2,900円 | Ultra 月14,500円〜 |
- 標準プランは3社とも月3,000円前後で横並びです。判断材料は「その3,000円に何が付くか」——Google AI Pro は Google One ストレージと Gmail・ドライブ連携、Claude Pro は Claude Code と Cowork、ChatGPT Plus は Deep Research・Sora・Codex・ChatGPT Work。
- 最上位モデル GPT-6 Astra は上位プラン中心です。チャットで使える GPT-6 Pro は Pro($100/$200)・Business・Enterprise のみで、回数には上限があります。Plus で GPT-6 Astra を使えるのは ChatGPT Work と Codex だけです(2026年9月・OpenAIヘルプセンターで確認)。
- Google だけ為替の影響を受けません。ChatGPT と Claude はドル建てなので、円安が進むと請求額が上がります。Google AI は円建ての公式価格です。
社員10名で使うと、いくらか。
前提:10名 × 1日20回 × 月20営業日=月4,000リクエスト。1回あたり入力2,000/出力800トークン。月間で入力800万・出力320万トークン。
単位:円/月(1ドル150円換算)。サブスクは月3,000円 × 10名。
用途別の使い分け。 ← ここだけは長持ちします
モデル名も価格も入れ替わりますが、「この用途にはこの系統」という対応は、この2年ほとんど動いていません。受講者に持ち帰らせるならこの表です。
| やりたいこと | 第一候補 | 根拠 |
|---|---|---|
| 長文の読解・要約・契約書チェック | Claude | 知能指数63点で首位。文脈長100万トークン |
| 大量の資料・PDFをまとめて分析 | Gemini | 全モデルが100万トークン。Flash-Lite は $0.30/$2.50 と最安水準 |
| 何でも一通り・機能の幅 | ChatGPT | 有料プランの GPT-5.6 Sol は知能指数61点(無料・Go は Luna)。画像・音声・エージェントを単一契約で網羅 |
| コーディング・業務自動化 | Claude / ChatGPT | Opus 5 がエージェント指数55.3で首位、GPT-5.6 Sol がコーディング指数80で首位 |
| Office/Windows 中心の職場 | Copilot | 単体性能ではなく既存画面での利用。複数社のモデルを切替可能 |
| 出典つきで調べる | Perplexity | 回答に出典を併記する設計 |
| 自社資料だけを読ませて答えさせる | NotebookLM | Google AI Pro に同梱。社内ナレッジ検索の入口として最も説明しやすい |
| SNS上のリアルタイム情報 | Grok | X との資本・データ連携。$2/$6 と価格面でも優位 |
用語。これだけ。
初回に配る用語ミニ辞典(A4 1枚)と同じ内容です。説明は経営者の言葉に寄せてあります。講座中に用語を説明する時間を節約するために配ります。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| プロンプト | AIへの指示文。長さより、前提と条件が入っているかが効く |
| カスタム指示 | 全部の会話に自動で効く前提設定。会社の自己紹介を毎回書かずに済む |
| プロジェクト | 会話と資料をまとめておく箱。案件・業務ごとに分けて使う |
| 専用AI | 自社の資料と指示をあらかじめ仕込んだAI。本講座ではプロジェクト機能で作ります(無料プランでも使えます)。プロジェクトは個人プランでも社員と共有できます(Free 5人/Go・Plus 10人/Pro 100人)。GPTsは提供終了が告知され、プラグインへ移行中です |
| ハルシネーション | AIがもっともらしい嘘を言うこと。無くならない。前提として設計する |
| コンテキスト(文脈長) | AIが一度に読める情報量。長くなるほど前の話を取りこぼす。上限はトークン数で示される(例:100万トークン) |
| モデル | AIの本体。定期的に入れ替わる。入れ替わると出力の傾向も変わる |
| トークン | AIが文章を数える単位。API利用時の課金の基準。日本語はおおむね1文字1〜2トークン |
| 知能指数(Intelligence Index) | 複数の試験の点数を合成した、モデルの総合成績。物差しのバージョンが変わると同じモデルでも点が動くので、比較時はバージョンを揃える |
| API | 自社のシステムからAIを呼び出す仕組み。社長が触る必要はない。画面は付いてこない |
| 従量課金 | 使った分だけ払う方式。月額固定のサブスクとは別会計。API はこちら |
| キャッシュ/バッチ | 同じ前置きを使い回す(キャッシュ・約90%引き)、急がない処理をまとめて出す(バッチ・50%引き)。API のコストを下げる二大手段 |
| オープンウェイト | モデルの中身が公開されていて、自社サーバーでも動かせる種類。安いが、運用と説明の責任は自社に来る |
| 推論設定 | AIにどれだけ考えさせるかの設定。深く考えさせるほど賢くなるが、遅く・高くなる |
| RAG/ナレッジ検索 | 自社資料を検索させてから答えさせるやり方。第8回で扱う |
| エージェント | 複数の工程を続けて実行させる使い方。第9回で扱う |
| MCP | 自社のシステムとAIをつなぐための共通の作法。今は名前を知っていれば十分 |
| 学習に使われる/使われない | 入力内容がAIの改善に使われるかどうか。プランと設定で決まる。必ず確認する |
| ファインチューニング | AI自体を自社向けに作り替えること。中小企業では原則不要。本講座では扱わない |
| 評価(eval) | AIの答えを採点して品質を測ること。第10回で扱う |
全20語。うち知能指数・従量課金・キャッシュ/バッチ・オープンウェイト・推論設定の5語は、このページの数字を説明するために足したものです。受講者に配るA4 1枚は、その5語を除いた15語です。
もう一段、技術寄りの話。 ← 講師が知っておく分
ここから先は受講者に説明する内容ではありません。第9回・第10回で突っ込んだ質問が出たときに、講師が黙らないための分です。受講者に話すときは 06 と 07 の言葉に翻訳してください。
8-1 なぜ「同じモデル」なのに答えが変わるのか
- 推論設定(thinking / reasoning effort)。いまの上位モデルは、答える前に内部で考える長さを変えられます。02のスコアはすべて最大推論設定での測定値です。画面から普通に使ったときの体感はこれより下がります。「ベンチマークほど賢くない」と言われる理由の大半がこれです。
- サンプリングの揺れ。次の単語を確率で選ぶ仕組みなので、同じ入力でも出力は毎回変わります。温度(temperature)を0にしても完全には一致しません。「一度うまくいったから大丈夫」が成り立たないのは、この性質が理由です。第10回で毎月同じ10問を流すのは、これへの実務的な対処です。
- サイレント更新。同じ製品名のまま中身が差し替わることがあります。APIはバージョンを固定できますが、チャット画面には固定する手段がありません。だから受講者には「ある日から出力の傾向が変わることがある」と先に言っておきます。
8-2 文脈長は「入る量」であって「効く量」ではない
100万トークンと書いてあっても、入れた情報が均等に効くわけではありません。長い入力の真ん中に置いた情報がいちばん拾われにくいという傾向が、複数のモデルで繰り返し観測されています(lost in the middle と呼ばれます)。
- 実務上の帰結:大事な指示は冒頭か末尾に置く。第5回で「禁止事項を指示文の先頭に移す」と教えているのは、この性質の応用です。
- 第8回に直結:「資料を増やすほど精度が落ちる」の一因がこれです。量が増えるほど、必要な1行が真ん中に埋もれます。だから範囲を絞るほうが強い。
- コストにも効きます:OpenAI は入力27.2万トークンを超えると単価が上がります(03参照)。長い文脈は遅くて高いので、入れないほうが速く安く正確という三方よしの場面が多くあります。
8-3 RAG(ナレッジ検索)の中で実際に起きていること
第8回で扱う「自社資料を読ませて答えさせる」は、内部では4段階です。精度が出ないとき、どの段で失敗したかを切り分けられるかどうかが、講師の腕になります。
| 段 | やっていること | ここで失敗すると | 打ち手 |
|---|---|---|---|
| 1 | 分割(chunking)資料を数百〜千字の断片に切る | 表や条文が途中で切れ、意味が壊れる | PDFよりテキスト。表はCSVに。見出しを残す |
| 2 | ベクトル化(embedding)断片を数値の並びに変換する | 言い回しが違うと似ていないと判定される | 社内用語と一般語の言い換えを資料に併記する |
| 3 | 検索(retrieval)質問に近い断片を数件だけ拾う | そもそも正解の断片が拾われない。ここが最多 | 範囲を絞る/古い版を消す/質問の粒度を揃える |
| 4 | 生成拾った断片だけを見て答えさせる | 断片に無いことを補って答える(ハルシネーション) | 「記載がなければ記載がありませんと答える」の1行 |
8-4 「オープンウェイト」は「オープンソース」ではない
- 公開されているのは重み(パラメータ)だけで、学習データも学習手順も公開されていないのが普通です。だから中身を検証できるわけではありません。「オープン」の語感で安心しないこと。
- 自社サーバーで動かせる=データが外に出ないは正しい。ただしGPUの調達・運用・更新の責任が自社に来ます。中小企業でここを引き受ける合理性は、まずありません(06の「推奨しないもの」の実質的な理由)。
- ライセンスも様々です。商用利用の可否、利用者数の上限、出力の扱いが製品ごとに違います。「オープンだから自由」ではありません。
8-5 ベンチマークをどこまで信じるか
- 汚染(contamination)。評価用の問題が学習データに入っていると、点数は実力より高く出ます。新しい評価が次々作られるのは、これが理由です。
- 版が変わると点が動く。02の注意書きのとおり、Gemini 3.1 Pro は v4.0で57点・v4.1.1で48点。モデルではなく物差しが変わっただけです。比較記事を読むときは、まずバージョンを探してください。
- 業務の成績とは別物。ベンチマークは短い問題を大量に解かせます。実務は「曖昧な指示」「自社固有の前提」「長い資料」の3点で構成されていて、そこは測られていません。第10回の正解セット10件のほうが、その会社にとっては正確な物差しです。これはこの講座の一番の主張なので、根拠として使ってください。
8-6 MCP と エージェント(第9回で聞かれる分)
- MCPは、AIと外部システムをつなぐときの作法の共通化です。「このツールにはこういう機能があって、こう呼ぶ」を統一の形で伝える規格。ツールごとに個別開発していた部分が減ります。経営者に実装させる必要はありませんが、「つなぎ方に標準ができつつある」=いま作ったものが無駄になりにくい、という話としては使えます。
- エージェントは、AIが自分で「次に何をするか」を決めながら複数手を進める使い方です。便利ですが、途中の判断が見えないので、どこで間違えたかを特定できません。第9回で工程を分けて手で流させるのは、この不透明さを避けるためです。慣れてから自動化に寄せる、の順序を崩さないでください。
- 費用の注意:エージェント機能は有料プラン限定で(ChatGPTでは旧エージェントモードが終了し「ChatGPT Work」に置き換え、Plus以上)、クレジット制の課金体系を取ることがあります。受講者に試させる前に、当日の実行回数と費用の見当を伝えてください。
8-7 この講座で「やらない」と決めた技術
| 技術 | なぜ扱わないか | 聞かれたときの答え |
|---|---|---|
| ファインチューニング | データ整備の工数が中小企業の規模に合わない。モデルが入れ替わるたびにやり直しになる | 「同じ効果は、資料を読ませる(第8回)と指示文を整える(第2回)でほぼ出ます。順番として先にそちらです」 |
| 自社サーバーでのモデル運用 | GPUの調達と運用の責任が自社に来る | 「データを外に出さないという目的なら、学習に使われないプランを選ぶほうが安くて確実です」 |
| ベクトルデータベースの自前構築 | 既存サービスのナレッジ機能で足りる規模 | 「精度が出ないのは、たいてい仕組みではなく資料側の問題です(8-3の3段目)」 |
| プロンプトの自動最適化 | 何が効いたか分からなくなり、社内で引き継げなくなる | 「引き継げない仕組みは、担当が替わった時点で止まります。第5回で仕様書を書くのはそのためです」 |
どれくらいの速さで古くなるか。
2026年6月30日から8月21日までの8週間で7件。この年表そのものが「ネットの比較記事を信じるな」の証拠になります。
| 日付 | できごと | 影響 |
|---|---|---|
| 6/30 | Claude Sonnet 5 リリース | $2/$10 で Opus 4.8 級 |
| 7/9 | GPT-5.6(Sol/Terra/Luna)一般提供 | 3階層への再編 |
| 7/24 | Claude Opus 5 リリース | 知能指数で首位交代 |
| 7/30 | OpenAI が Luna を80%値下げ | 階層間の価格差が5倍→25倍に |
| 8/12 | Grok 4.6 リリース | 知能指数が56→61に |
| 8/13 | Gemini 3.7 Flash リリース | 3.6 Flash の23日後 |
| 8/21 | OpenAI が GPT-5.6 Sol を20%超値下げ | 3か月間の期間限定 |
この数字を作り直すとき。
3か月ごとに更新します。手順は5つです。
- 1. 各社公式の価格ページで単価を確認(Anthropic: Claude Platform Docs 価格/OpenAI: 価格改定告知/Google: Gemini API pricing・Cloud Agent Platform pricing)
- 2. Artificial Analysis で Intelligence Index のバージョン番号を確認してからスコアを取得(バージョンが変わると同一モデルのスコアが動く)
- 3. 09の年表に新イベントを追記し、02の棒の幅(
style="width:NN%")を更新 - 4. 05のコスト試算は単価を差し替えれば整合(計算式は棒のラベルに明記してある)
- 5. ヘッダの「確認日」と「次の更新」を書き換える